茶遊記

中国茶の物語と評茶、茶館情報のブログ。

茶遊記Vol.55 2022年10月「坦洋工夫の紅」

茶遊記Vol.55

         坦洋工夫の紅 

 

 

          

紅茶:坦洋工夫 福建省福安市坦洋村

外形:乾いた黒色。細く曲がった釣り針状。

湯色:橙紅色。

香気:桂園香(干した竜眼)。

滋味:甘い滑らかな桂園の味。

 

 坦洋工夫茶は福建省福安市で生産されている紅茶です。茶名にある坦洋は村の名前から取りました。杭州からおよそ500㎞離れたところにあります。この地域はもともと坦洋菜茶とよばれる茶葉があったと伝わっていますが、坦洋工夫茶は清代・咸豊、同4年間(1851-1874年)に作られました。

 坦洋工夫茶は政和工夫茶、福鼎白林工夫茶と並んで福建省三大紅茶のひとつです。ちなみに福建省の別称は闽なので福建省の紅茶を闽紅と呼びます。他にも四川省の紅茶は川紅、雲南省は滇红,広東省は粤红と省略して呼びます。

 紅はもちろん紅茶の意味ですが、人気があったり流行っている意味で«紅»を表現します。ネットショップのスターを网红と呼ぶのもここからきた言葉でしょう。坦洋工夫もかつては福建省一の«紅»茶でした。

 生産量、紅茶としての質の良さは欧米人の間で評判を得ました。その背景には16世紀半ばから17世紀初め頃に誕生した武夷・桐木関の正山小種に倣ったことがあります。1851年、武夷から来た職人が紅茶の製法を伝えて誕生したのが坦洋工夫です。今回は伝統的な加工法で生産された坦洋工夫茶を手に入れました。茶香、滋味ともに瑞々しいフルーツの様で噂に違わずいいお茶でした。歴史の中で形成されたゆるぎない味です。現代でも十分«紅»になれる銘茶です。

 

*「工夫茶とはいったい何なのか」という研究をしています。今月から工夫という名の付く茶葉を紹介していきます。中国紅茶の歴史が少し見えてくると思います。